別荘が欲しい。
こう書くと、なんだかずいぶん余裕のある人の話に聞こえる。
でも僕の場合、きっかけはもう少し単純だった。
犬を、思いっきり遊ばせてあげたい。
それだけだったのかもしれない。
僕は東京で、ミニチュアシュナウザーの「かげとら」と暮らしている。
まだ1歳10か月。
平日の僕は仕事をしているので、
かげとらが外で遊べるのは基本的に朝と夕方の散歩くらいだ。
出社と在宅は半々くらいだけど、在宅でも忙しさは変わらず、
日中はかげとらをかまってあげられない。
なので、平日のかげとらは、とても退屈なんだと思う。

しかも夏の東京は暑い。
少し寝坊しただけで、もう散歩に行けない。
「今日は暑いから、もう少し涼しくなってからね」
そんなことを言っている僕を、かげとらはどう思っているんだろう。
たぶん何も考えていないかもしれない。
でも、ちょっと申し訳ない。
だから週末になると、できるだけ一緒に出かけるようになった。
車に乗って、ドッグランへ行ったり、犬と一緒に入れるカフェを探したり。
自然の中にある広いドッグランでリードを外すと、かげとらはものすごい勢いで走り出す。
他の犬を追いかけたり、追いかけられたり。
そして、ときどきこちらを見る。
その顔が、東京の家にいるときとは全然違う。
どう見ても笑っているように見える。
「ああ、楽しいんだな」 と思う。
その顔を見るたびに、こういう時間をもっと作ってあげたいと思うようになった。

犬と暮らし始めて、旅の仕方が変わった
かげとらと暮らすようになって、旅行の仕方も変わった。
それまでなら普通にホテルや旅館を予約すればよかったけど、
犬が一緒だとそう簡単ではない。
もちろん犬と泊まれる宿もある。
でも選択肢はずっと少ない。
そこで思いついたのが、キャンプだった。
テントなら、かげとらも一緒に泊まれる。
河口湖、軽井沢、那須、八ヶ岳。
車にキャンプ道具を積んで、自然の中で一緒に過ごす。
最初は単純に「犬と泊まれるから」という理由だったはずなのに、
いつの間にか僕自身がその時間を楽しむようになっていた。

東京を離れて、森の中で過ごす。
朝、テントから出ると空気が少し冷たい。
コーヒーを淹れる。
かげとらはその辺をウロウロしている。
別に何か特別なことをするわけではない。
でも、それが気持ちいい。
「こういうところで暮らすのもいいな」
そんなことを、少しずつ考えるようになった。

YouTubeで見つけた、森の中の小さな家
そんな頃、YouTubeでキャンプ動画を漁るように見ていた僕に、
ある動画がおすすめされた。
「森のコンテナハウス」というチャンネルだった。
森の中にある、古くて小さな家。
それを一人の女性がDIYで少しずつ直していく。
最初に惹かれたのは映像だった。
森の緑と、小さな家。
そして、ボロボロだった家を自分の手でひたむきに直していく姿。
DIYなんてほとんど経験のない僕には、それだけでも十分面白かった。
少しずつ家が変わっていく。
やがて、古かった小屋は落ち着いた素敵な空間になった。
ウッドデッキに座って森を眺める。
空を見る。
ペットと過ごす。
コーヒーを飲んだり、ご飯を食べたりする。
「……これ、いいな」
完全に影響された。
その後は、八ヶ岳に移住した人、軽井沢に移住した人、森の中で暮らしている人。
そんなYouTubeを次々と見るようになった。
いつか自分も、都会の喧騒から少し離れて、こんな時間を過ごせたらいいな。
ただ、仕事もある。
東京には家もある。
いきなり移住するほどの覚悟はない。
そもそも僕は、そんなに思い切りのいい人間ではない。
そこで知ったのが「二拠点生活」という暮らし方だった。

多摩からなら、八ヶ岳に行けるんじゃないか
僕が暮らしているのは、東京都心ではなく多摩地区だ。
軽井沢もいい。
那須も好きだ。
でも、毎週末通うとなると、ちょっと遠い。
一方、八ヶ岳なら中央道を使って2時間ほどだ。
実際に行ってみると、思っていた以上に近く感じた。
しかも八ヶ岳には、かげとらと一緒に行ける場所がたくさんある。
ドッグラン。
犬と入れるカフェ。
犬用のご飯を出してくれる店も多い。
そして何より、夏でも東京よりずっと涼しい。
「八ヶ岳だったら、できるんじゃないか」
だんだん妄想が具体的になってきた。
週末になったら車で八ヶ岳へ行く。
小さな家があって、庭がある。
かげとらが走る。
僕はDIYをする。
疲れたらコーヒーを淹れる。
いつか仕事を引退したら、小さなカフェなんかできたらいい。
ちなみに僕にはカフェ経営の経験はない。
夢だけは順調に育っている。

でも、別荘なんて買えるのか
問題はお金だ。
東京にはすでに家がある。
そこに、もう一軒家を持つ。
普通に考えれば、なかなか意味の分からない行為である。
それでも気になってしまったので、とりあえずGoogleで検索してみた。
「八ヶ岳 別荘」
すると、泉郷や三井の森など、いくつもの別荘地が出てきた。
物件を眺めていると、さらに驚いた。
100万円。
300万円。
500万円。
土地付きの家が、本当にそんな価格で掲載されている。
もちろん古い。
でも写真を見る限り、森に囲まれた結構いい感じの家だった。
「え、これなら買えるんじゃない?」
と思った。
100万円や300万円なら、これまで仕事をして貯めてきたお金でも手が届く。
それに、普段何となく使っているお金もある。
飲み会。
使っているのかよく分からないサブスク。
気にせず買ってしまうもの。
そういうお金をちゃんと管理すれば、別荘の維持費くらい何とかなるんじゃないか。
今思えば、ずいぶん楽観的だった。
でもこの時は、本当にそう思っていた。
そして僕は、週末になるとかげとらを車に乗せて、八ヶ岳へ物件を見に行くようになった。

気づけば5週連続。
物件を見て、カフェに行って、かげとらを遊ばせて、また東京へ帰る。
すっかり週末の恒例行事になった。
最初に見ていたのは、数百万円の中古別荘だった。
写真では、どれもなかなか素敵に見えた。
森の中にある古い家。
少しDIYすれば、自分でも直せるんじゃないか。
そんなことを考えていた。
ところが実際に現地へ行ってみると、
家が傾いていた。
基礎がボロボロになっていた。
壁には穴が開いていた。
そして、その穴を通って虫たちが自由に出入りしていた。
スズメバチまでいた。
不動産会社の担当者からも、
「これは、あまりおすすめしません」
と言われた。
売っている人におすすめされない家というものが、この世にはあるらしい。
100万円の別荘には、100万円で売られている理由がちゃんとあるのだ。
僕の八ヶ岳での別荘探しは、ここから少しずつ計画がおかしくなっていく。
最初は数百万円で買えると思っていた。
それが1,000万円になり、
そして今、僕が本気で悩んでいるのは、
2,200万円の、築35年のログハウスである。
どうしてこうなった。
その話は、また次回。



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